博物館が直面する「洗練されたデジタル体験」との競争

今朝の沼ニュース 2025-11-19

英国で実施されたレポート「Curating Connection: Transforming Visitor Engagement in the Cultural Sector」(2023)によると、文化施設が提供する体験と、来館者が期待する水準との間に、これまで以上に大きなギャップが生まれています。

調査は2,000人の(英国の成人)文化施設訪問者と300人の文化機関リーダーを対象に行われ、来館者の関心が「展示を見る」から「体験を積極的に味わう」へと明確に変わっていることが示されました。特に、AR/VRを使った没入型演出やオンライン連動型のストーリー体験など、洗練されたデジタル体験の普及が、従来型の博物館・ギャラリーにとって競争要因になっている点が注目されます。

こうした背景を踏まえ、Museums Association が公開した記事
“Museums face growing competition from ‘slick’ digital experiences” でも、デジタル体験市場の急速な拡大が強調されています。

デジタルを受け入れにくい3つの内部バリア

レポートでは、組織側の課題として以下の3点が明確に整理されています。

  • リソース不足:機材投資や専門スタッフ確保が難しい
  • スキル不足:デジタル演出を設計・実装できる人材が少ない
  • 文化的抵抗:展示手法の変化への心理的・組織的ハードル

これらが組み合わさることで、「デジタル体験を拡張したいが、動けない」という構造が生まれていると指摘されます。

体験の中心は「来館者の物語」

レポート作成者は、文化施設の未来像を次のように示します。

“モノを見せる場”から“体験をデザインする場”へ転換する必要がある。

つまり、展示そのものよりも、「来館者がどのように関わり、自分の物語として持ち帰るか」が重視されつつあります。デジタルはそのための手段にすぎませんが、双方向性・パーソナライズ・継続的関与といった要素を満たす有力な方法であることは確かです。

今日のアイデア:ローカル文化資源×ARで「来館後も続く展示」をつくる?

例えば、地域博物館でローカル文化資源を素材に、来館者が自分のスマホで過去/未来の風景をARで重ねて見る体験を、市民や学生と協働でデザインしてみるのはどうでしょう。
さらに、来館後もオンラインで物語が続く仕掛けを用意すれば、展示鑑賞が“終わり”ではなく“始まり”になります。こうした流れが、「展示→物語→参与」という新しい文化資源学的アプローチにつながります。

今日のビジネスTips

文化施設向けに、来館者体験をデジタルとリアルの両面で設計・実装する「体験デザイン・パッケージ」を提供するサービスには伸びしろがあります。AR/VR、スマホアプリ、来館後フォローコンテンツまでを一括で支援できれば、施設のリピート率向上にも寄与しやすく、文化経営の新たな収益源にもつながるでしょう。


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