今朝の沼ニュース 2025-12-20
世界のどこかで、また一つ古い歌や踊りが静かに失われていく――。そんな現実に抗う試みが、南米ガイアナの先住民族コミュニティで進んでいます。伝統儀礼音楽「バブーン・ダンス(Baboon Dance)」を、AIとデータサイエンスの力で記録・保存しようとする学際的プロジェクトが注目を集めています。テクノロジーは、文化を消費する道具ではなく、守り継ぐための伴走者になりつつあります。
消えゆく儀礼音楽と向き合う――ガイアナ先住民族の挑戦
バブーン・ダンスは、ガイアナの先住民族コミュニティ Mari Mari Kabakaburi に伝わる、Arawak 系の儀礼的舞踊・音楽です。
しかし、若年層の都市流出や言語の衰退により、演奏者や語り手が急速に減少し、録音資料もほとんど残されていません。
こうした危機的状況の中で始まったのが、AI・機械学習・地理情報分析・民族音楽学を融合した研究プロジェクトです。目的は単なる保存ではなく、失われつつある文化を「生きた知」として次世代につなぐことにあります。
AI×民族音楽学――音だけでなく「文脈」を残す
このプロジェクトの特徴は、音響データの解析だけにとどまらない点にあります。
AIを活用して、旋律やリズムといった音楽的特徴を分析する一方で、踊り・儀礼行為・言語・地理的背景と結びついた文化的コンテクストも同時に記録していきます。
重要なのは、研究者が一方的にデータを収集するのではなく、コミュニティ自身が文化保存の主体となる仕組みが重視されていることです。テクノロジーは、外部から文化を「所有」するためではなく、内側から文化を支える道具として使われています。
計算民族音楽学が拓く文化保存の新しいかたち
この取り組みは、近年注目される 計算民族音楽学 の実践例でもあります。
機械学習による定量的分析と、人類学的・歴史的理解を組み合わせることで、音楽を「データ」と「意味」の両面から保存する試みが可能になりました。
これは研究のためだけの成果ではありません。
文化政策、教育、地域振興にも応用できる可能性を持ち、世界各地で消滅の危機にある音楽伝統にとって、大きな希望となり得ます。
まとめ
ガイアナのバブーン・ダンス保存プロジェクトは、AIが文化を均質化する存在ではなく、多様性を支えるための技術になり得ることを示しています。
計算民族音楽学は、伝統音楽を分析する学問から、コミュニティとともに文化を未来へ運ぶ実践へと進化しつつあります。消えかけたリズムを再び響かせる鍵は、意外にも最先端のデータサイエンスの中にありました。