今朝の沼ニュース 2025-12-11
欧州の大河川で進む窒素汚染。それを食い止める切り札として「湿地」が再び注目されています。
EUの研究機関・European Commission Joint Research Centre(JRC)が発表した最新研究は、湿地再生がもたらす環境改善の効果を数字で示し、農業と環境政策の新たな関係に光を当てています。
◆ 歴史的に失われた湿地を取り戻すとどうなる?
研究によると、かつて農業目的で排水されてきた湿地の27%を再生するだけで、川への窒素流入を最大36%も削減可能だといいます。
窒素は肥料や畜産に起因するケースが多く、水中に流れ込むと藻類の異常繁殖や生態系のバランス崩壊につながる厄介者。湿地は本来、この窒素を吸収・分解してくれる「自然の浄化装置」でした。
今回の研究は、自然の力を活かす“ネイチャーベースドソリューション”が、実際に数値として大きく貢献することを証明した形です。
◆ なぜ湿地はそんなに強い?──自然の浄化メカニズム
湿地は、水がゆっくりと滞留することで、窒素が植物や微生物によって取り込まれたり分解されたりする「余裕時間」を生み出します。
いわば、川に入る前に汚染物質を“足止め”してくれる前処理施設のような存在。
さらに再生湿地は、生物多様性の向上や洪水リスクの軽減など、多面的なメリットもあります。
環境保全と気候変動対策の両面で「一石二鳥」の効果が期待されるのが湿地再生なのです。
◆ とはいえ課題も。農地とのバランスはどう取る?
一方で、研究は重要な課題も示しています。
湿地として再生するということは、本来の農地を一部手放す可能性があるということ。
農家にとっては収穫量の減少や土地利用の変化が現実的な負担となり得ます。
そのため、今後は
- 農家への補償制度
- 環境サービスに対する対価支払い(PES)
- 生産性を維持しつつ湿地再生を進めるハイブリッド型土地利用
など、農業政策と環境政策をつなぐ枠組み作りが焦点となりそうです。
◆ まとめ:自然が持つ浄化力をどう活かすかが未来の鍵
今回のJRC研究は、湿地再生が机上の空論ではなく、実際に大規模な水質改善効果をもたらす可能性を定量的に示した点が大きな意義といえます。
農業とのバランスという課題を抱えつつも、湿地の復元は持続可能な水管理に向けて有力な選択肢となりそうです。