今朝の沼ニュース 2025-12-08
ナイジェリア・ベニン市で建設が進む「Museum of West African Art(MoWAA)」は、西アフリカの豊かな文化遺産を世界へ発信することを目指す大型プロジェクトです。しかしその華々しい構想の裏側で、地元の伝統的権威であるベニン王室との摩擦が深まり、開館予定は抗議を受けて延期されました。遺産を“誰が”“どのように”守るべきか——この問いを突きつける出来事となっています。
伝統権威の反発:王の博物館構想との衝突
MoWAAは総額約2,600万ドルという大規模予算を投じ、西アフリカの文化遺産の称揚・保存・教育を担うことを掲げてきました。しかし、地元の有力な伝統権威である「Oba of Benin(ベニン王)」側が強く反発。
王室支持者らは、MoWAAが「王が推進する独自の博物館構想を脅かす」と主張し、大規模な抗議行動へと発展しました。結果として、期待されていた開館は延期され、事態は文化遺産をめぐる政治的問題へと発展しています。
なぜ対立が生まれたのか:遺産をめぐる“主導権”争い
ナイジェリアのベニン地域は「ベニン・ブロンズ」に象徴される伝統文化の宝庫。近年は海外の美術館から返還される文化財も増え、「誰がその遺産を所管し、語る権利があるのか」がより重要な論点になっています。
王室側は「文化遺産は王の管理下にあるべき」と考える一方、MoWAAの計画は政府・国際的な支援機関が主導する形で進んできました。この構図が、長年地域で権威を持つ伝統組織には脅威として映ったのです。
文化資源学が示す視点:地域・伝統組織・外部支援の三角関係
今回の問題は、単なる建設計画の遅延ではありません。文化資源の保存・活用におけるガバナンスの重要性を浮き彫りにしています。
国際支援機関は文化財保存技術や資金調達に強みを持ち、国家は制度的枠組みを提供できます。しかし、文化遺産は地域社会の生活やアイデンティティにも直結しており、伝統権威の役割を欠いたプロジェクトは摩擦を生みがちです。
MoWAAの事例は、「誰に利益が還元されるのか」「誰が語り部となるべきか」という文化資源学の核心を象徴するケースと言えるでしょう。
まとめ
MoWAAの開館延期は、文化施設の建設が単なるインフラ整備ではなく、地域の歴史・権力・アイデンティティが複雑に絡むプロセスであることを示しています。今後は、伝統組織、地域住民、国際支援の三者がどのように対話を深め、より包括的な遺産ガバナンスを構築できるかが鍵となりそうです。
ニュースソース:https://www.ft.com/content/c1f98084-7b6d-40aa-adc1-ad36e11dc1ab